vol.16巻頭特集スピンオフ「イ・ダクヒ選手に熱烈アプローチ!」

ある日、プロテニス選手の松井俊英選手が、Facebookでイ・ダクヒ選手について
「なんでそんなにうまいの?」と感嘆していていました。
なんだろうと思って読んでみると、なんと彼は聴覚障がいがあるというではないですか。
こんなイケメン選手が、そして障がいのある人が、世界の舞台で活躍しているなんて……!
これはCo-Co Lifeで紹介せずにはいられません!!
さっそく松井選手に仲介をお願いしました。

テニスの世界ランキング200位というと、あまりピンとこないかもしれません。
でもテニスは個人競技なので、世界の200人に入るってものすごいことなのです。
子どもの頃からテニスをしていて、プロを目指していても、
200位どころか300位、400位を切れない、
国際ポイントですら取ることができない選手は山ほどいるのです。
しかもATP(男子プロテニス協会)ランキングです。
フェデラーやジョコビッチ、ニシコリと同じ枠です。障がい者スポーツ枠ではないのですよ。

テニスは、相手が球を打つときの「パコーン」という音を目安に、
球にどれだけの回転がかかっているかを判断します。

「パンっ!」だったら回転の少ない直球、
「シュッ!」という音が強ければ回転のかかったスライスといった具合です。
変な音がすれば変な跳ね方をするだろうなと予測します。
相手の打球音が聞こえないと自分のミスが増えるというのは研究論文で証明されています。
ナダルやシャラポワが打つときにワアワア叫ぶのは、
叫んだ方が相手のミスが増えることを無意識のうちにでも知っているからでしょう。

ですから音のない世界で、たった17歳の選手が世界200位に上り詰めるというのはすごいことなのです。
英語で言えば「アンビリーバボー」です。

テニス選手は世界中を転戦して試合をし、ポイントを稼いでランキングを上げていきます。
ダクヒ選手に取材を依頼したときはちょうど韓国で試合をしていたときでした。
そのため書面で質問を送り、回答してもらいました。
ダクヒ選手も彼のマネジャーもとても親切で、親身になって答えてくれました。

ここでは、本誌に載せられなかった回答を紹介しますね。

ーー松井俊英選手がFacebookで「どうしてそんなにうまいの?」と言っていましたが、
どうしてそんなにうまいんですか?

「松井さんにお礼を言わなければいけませんね。僕は自分を特別だとは思わないんです。
僕はただベストのプレイをするだけ、そしてテニスを楽しみ、結果をあまり気にしません」

ーー松井俊英選手とペアを組んでいると伺っています。彼の素晴らしいところはどこですか?

「松井さんはサーブとボレーが強い素晴らしい選手です。これはアジアの選手には珍しいのです。
プロとしてのキャリアを長く続けていること、そして自分自身を完璧に調整し、
気持ちをコントロールしているところを尊敬します」

ーー審判は通常、スコアやジャッジを口頭で言うだけです。
スコアは自分で覚えておくにしても、わからないことはどうするのですか?

「球がインかアウトかは、線審(コートサイドに座っている人)のジェスチャーを見て判断します
(線審はインなら手を水平に、アウトなら手を上に上げます)。
例えばラリーの最中に、主審がなにかコールして中断させる場合があります。
でも僕には何が起こったのかわかりません。
そういう場合だけ、主審はジェスチャーで状況を教えてくれます。
それ以外は、特別な扱いはありません。
国際大会はどの選手にとっても、ポイントを稼ぐ大事な試合です。
僕だけをひいきしてもらうわけにはいかないのです。
ただ、困ったときには助けてもらうというスタンスです」

特別扱いはしないけれども、必要な手助けはするということ。
これこそ「合理的配慮」ですよね。
相手の打球音が聞こえないことで、「より早く相手の動きと球筋を読む」と言っているダクヒ選手。

プロの選手の球はかなり速いので、打つ瞬間にはどこに球が飛んでくるかを読んでいないと間に合いません。
自分が打った球筋やコースで、返球されるコースはかなり限定されるものですが、
音に頼らないことで、より「読み」に磨きがかかっているのだと想像します。

また、テニスはメンタルがかなり重要なスポーツです。
コートに入ったら一人きり。コーチに指示を仰ぐことは禁止されています。
チームスポーツでもないので、仲間もいません。
そうした中で、自分と向き合い、普段通りのプレイをするには、強靱な精神が必要なのです。
少しでも周囲に気を散らしたり、審判のジャッジに怒ったりすると、ミスを連発してしまいます。
静かに澄み切った世界で、小さなことでイライラしない冷静さを彼は持っているのでしょう。

ダクヒ選手の「障がいはハンデではない」というのは、強がりでもなんでもなく、
本音なのだろうと感じます。

そしてその通り、彼は自分の障がいを武器にしてしまいました。
テニスに必要な「相手の動きを読む力」「試合で冷静を保つ力」が、
障がいにより強化されているのかもしれません。

韓国や中国といった近隣国の選手は、日本で開催される大会によく出場します。
次にダクヒ選手が来日する大会は未定ですが、和久井は必ず次回は彼の試合を見に行こうと思っています。

このあと、日本で開催される国際大会は以下の通りです。
5月30日~6月5日
ポルシェ軽井沢フューチャーズ
http://www.karuizawa-tennis.com/futures/index.html

6月14日~19日
昭和の森男子国際オープン
http://www.showasp.co.jp/sports

10月1日~9日
楽天ジャパンオープン
http://www.rakutenopen.com/

11月7日~13日
兵庫ノアチャレンジャー
http://hyogo-tennis-as.com/

11月14日~20日
ダンロップスリクソンワールドチャレンジ
http://www.dunlop-tennis.jp/

日程が近づくと出場選手が発表されます。
出場の可能性が高いのは、現在の彼のランクにマッチしている11月の大会です。
時期が近づいたら、すこし気をつけて情報を仕入れておきましょう!

ジャパンオープンは大会のランクが高いので少し状況が異なりますが、
その他の大会は、そこら辺をブラブラ選手が歩いています。
試合の直前でなければ、ダクヒ選手を捕まえてサインをもらうとか写真を撮ってもらうとか、
いろいろできるはずです。
選手との距離がとても近いのも、下位国際大会のいいところなんですよ。
あのシャラポワ選手も、草津の下位大会で初優勝し、トップへの階段を駆け上ったことは有名です。

ダクヒ選手にもぜひ日本で活躍して、トップ選手になってほしいと思います。
(ちなみに3月に行われた甲府の大会でダクヒ選手は優勝しています。
最下位大会とはいえ、17歳で優勝はこれまたすごいんです!)
Co-Co Lifeのみんなで応援しましょう!

あと、ものすごーく余談ですが、取材中に彼が対戦していたのが、
日本シングルスランキング4位の杉田祐一選手。
和久井は彼をしばらく熱烈に応援していたことがありました。
でも和久井の心は今やダクヒ選手のもの。
ダクヒ選手と杉田選手の試合、気分はもう昔の男と今の男のケンカです。

結果は、ダクヒ選手がフルセット75、57、64と激戦の末、辛勝しました。
なんだかヒロイン気分で楽しかったです。