【Special対談】フレンチオーナーシェフと語り合う「みんなが暮らしやすい社会の実現とは!?」

「食のフレキシビリティ」「心のバリアフリー」とは!? フレンチシェフとして「嚥下食(えんげしょく)(スラ―ジュ)」を提供するフレンチレストラン「HANZOYA」オーナーシェフ 加藤英二(かとうえいじ)さんと、本誌編集長の元山文菜(もとやまあやな)が、みんなが暮らしやすい社会の実現についてお互いの視点で語り合いました。

加藤英二(かとうえいじ)
フレンチレストラン「HANZOYA」オーナーシェフ
7年前にくも膜下出血を発症して生きるということに向きあった。27年間に及ぶフレンチシェフの傍ら、日本各地にて「食の道ツナギスト」として“真っ当な”食・人・コトをつなぐ活動も実施している。
公式サイト:http://www.tsunagist.jp/  
■店舗情報 日本各地よりこだわり抜いて集めた一流の食材と、それぞれの個性に合わせたサービスの提供。最上の料理と空間が味わえます。
公式サイト:http://www.hanzoya.co.jp/restaurant
■店舗データ 住所:横浜市港北区新横浜3-23-8 HANZOYAビル1階
営業時間  :昼12:00~15:00 夜18:00~22:00
電話    :045-471-8989
定休日:月曜・火曜(祝祭日を除く)

 
元山文菜(もとやまあやな)
Co-Co Life☆女子部編集長
変形性股関節症による、中途障がい。現在は、人工の股関節を入れて生活している。
5歳の娘を持つワーキングマザー。障がい当事者、女性、母親という立場からダイバーシティ―とはどういうことなのか考える日々。2016年より本誌編集長。

―「嚥下食(えんげしょく)」との出会い

元山 食のフレキシビリティを意識されたキッカケはありますか? ご自身も一度、倒れられたことがおありとか…。
加藤 そうなんです。2010年の10月に「くも膜下出血」を患いました。その日から「これが最後のご飯かもしれない」と大事に食べていましたが、回復していく中、病院のご飯が不味いと感じるようになり、病院の食事に疑問を持つキッカケにはなりました。
元山 そこから、嚥下食について意識をされるようになったのですか?
加藤 いえ、その直後に東日本大震災があり、助かった自分の命を活かそうと、復興支援に東北へ行きました。そこで、高齢歯科の専門医に出会い、嚥下食について教えていただいたのがキッカケです。そこから管理栄養士さんや歯科医師さんの勉強会や研修会に参加し学ぶ中で、嚥下食とフランス料理は近いと思うようになりました。

―嚥下食= 介護食というイメージをくつがえす!

元山 嚥下食とフランス料理が近いとはどういうことですか?
加藤 嚥下障がいがある方は、安全を考えるとピューレ食みたいなものを選ばなければならない。実はフランス料理はピューレ食にとても近いんです。
元山 確かに! ピューレされたもの、ムースとかってフランス料理のイメージがあります。
加藤 フランス料理は、基本的に柔らかいので、嚥下食に適しているんです。さらに、飲み込みやすさについて、実際に作ったものを医師や専門家に食べていただき意見をもらって…を繰り返しました。
元山 なるほど。研究と実践を繰り返されているから、HANZOYA さんの嚥下食は飲み込みやすさなどの機能を満たしつつも、フランス料理の美しさ、美味しさも楽しめるのですね。そこは、Co-Co Life☆女子部と似ている所だなと思います。
私は下肢に障がいがあるから症状がひどい時にはヒールのある靴が履けない。じゃあおばあちゃんが機能的に良い靴を履いたらそのおばあちゃんは満足かというとそうではなくて、機能的にも良く見た目も良いどっちも満たしているという贅沢。
この前Co-Co Life☆女子部でバッグを開発した時にも機能的に良いのは勿論だけど見た目も満足できるという所を追及して造っていて大事にしているバッグを作ったんです。同じように加藤さんが味にも見た目も追及した結果、お医者さんにも聞いたりしながら研究をして追及をしてその上にご自身のフランス料理の知識やスキルを併せ持ってやっているという所に通ずるところを感じました。

―嚥下食と普通食の境界線(バリア)を壊す!

加藤 それがまさに「スラージュ」なんです。嚥下食として特別視するのではなく、嚥下が不自由な方もそうでない方も、一緒においしく食べられるフレンチとして名付けました。
元山 スラージュってどういう意味ですか?
加藤 「ホッとする、優しい」というフランス語です。小さなことだけど呼び方を変えるって凄く大事!そういうことから社会に存在する境界線をなくしていきたいなと思っています。
元山 たしかに、そういうことの積み重ねが、障がいの有無に関わらず誰にとっても暮らしやすい社会の実現につながっていくのですよね。
加藤 その考えで僕は、「食のフレキシビリティ」計画の活動をしています。僕は、ハンディはバリアではなく個性だと思っています。さまざまな個性に、柔軟に接する環境を、「食」を通して実現したいですね。
元山 実際、本日HANZOYA さんで、Co-Co Life ☆女子部での食事会をさせていただき、私達はおしゃれをしてこの場所に集まるというキッカケをいただきました。 そして、美味しいのはもちろん、凄く楽しくて元気になった!
これって、それぞれに合った食事とサービスを提供してくれるという安心感と信頼感があったからこそだと思います。このような、おしゃれをして出かけられるという場所が社会にもっと増えていけば嬉しいです。

―諦めないで! やりたいことを求めてほしい。

加藤 例えば手に麻痺がある方は、ナイフの代わりにスプーンを使うことが多いと思いますが、せっかくの外食ならば、「ナイフを持ってみませんか?」と提案したい。そのために僕たち料理を作る側は、ナイフで切りやすいような工夫を加えて、かつ見た目も美しい料理に仕上げます。
元山 なるほど! ナイフで切るという選択肢を持つこともできるということですね。
加藤 僕は食べやすいばかりではなくて、おしゃれや楽しいという食事をどんどん増やしていきたいんです。なので、諦めないで、そういうものを求めてほしいなと思います。そうしたら僕たちはもっと出来る事が増えて行くと思います。求めてくれる場所を僕は絶対に増やしていきたい! だから、ちょっと頑張ろうと思って外にご飯を食べに来てもらえたら嬉しいです。
元山 すごく救われる思いです。社会に感じるバリアを前に、それを訴えて行くことには勇気がいります。折り合いをつけてやっていくことで生きやすくなるのだと思い込んでいた自分を見た気がします。でも、そうじゃないんだ!発信すること、私達が一歩外に出ることは、みんなが暮らしやすい社会を作るキッカケになるんだ。と勇気をいただきました。

今回の対談を通じて、まずは当事者として凄く救われる思いになりました。
「私たちが感じてきた不便や不満が社会に必要とされる時が来ているのだよ!だから一緒に発信していこう。一歩外に出ようよ!」というのは、私がいつもCo-Co Life☆女子部のみんなに伝えているメッセージです。それを後押ししてもらえたような…さらに「一緒にやっていこうよ!」と手を引いていただいたような気持ちになりました。

私が障がい者になった十数年前と比べ、確実に社会が変わっているのだ、そして更に進化していくのだと実感しました。対談の最後は加藤さんのメッセージに涙していた私です。

Co-Co Life☆女子部のコンセプトと通じ合える点も多く、これからもお互いのやり方で、時に手を取り合いながらみんなが暮らしやすい社会を実現していきたいです。 加藤さん本当にありがとうございました!

編集・文:元山文菜 写真:鈴木智哉