本誌Vol.27特別編! ミライロ・垣内俊哉さん×元山編集長スペシャル対談

「バリアバリュー(障害を価値に変える)」という理念のもと、誰もが活躍できる社会を目指しビジネス 展開を行う「株式会社ミライロ」。設立10 周年となる今年、代表取締役社長・垣内俊哉さんの想いに、本誌編集長・元山文菜が迫りました。

※本記事は、本誌『Co-Co Life☆女子部』Vol.27に掲載の記事“Special Talk(スペシャルトーク)”の続きになります。はじめの記事もあわせてぜひお読みください♪
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※本記事では、本誌で採用している「障がい」表記を、垣内氏の選択により「障害」という表記に統一しました。

障害者の働き方―パラリンピックのその先は?

元山 垣内さんは、「ユニバーサルデザイン」が定着する社会をビジネスの世界から築いていこうと、「ユニバーサルマナー研修」に取り組んでいますね。

垣内 「ユニバーサルデザイン」とは、国籍、年齢、性別、障害、能力、そして文化や言語の違いに関わらず、誰もが利用しやすいデザインのことです。1990年代に米国から広がったデザインの考え方ですが、私はこの考え方を日本でももっと多く広げていきたいと考えてきました。

元山 株式会社ミライロのホームページでは、「ユニバーサルマナー」とは『 “自分とは違う誰かの視点に立ち、行動すること”は、特別な知識ではなく「こころづかい」の一つです。多様な方々に向き合うためのマインドとアクション』(http://www.universal-manners.jp/outline/)とあります。

さまざまなお客様を想定した「ユニバーサルマナー」を身に付けることが、接客業を要にする企業を中心に着々と広がっている様子を感じます。

垣内 「ユニバーサルデザイン」については、日本ではまだ浸透していない部分があるのも実情です。でも私は、まずは「今の社会でできていること」をしっかりと見ることも大事だと思っています。「ユニバーサルデザイン」や「ユニバーサルマナー」について関心を持つ企業は年々増えています。

元山 日本では2020年に東京パラリンピックがあり、さらに2025年の大阪万博があります。いままさに「ユニバーサルデザイン」が日本でも定着していくタイミングだと感じていますが、垣内さんはまたさらにその先の未来については、どのようにお考えでしょうか。

垣内 パラリンピックに代表されるような、障害者スポーツの盛り上がりはとてもいいことだと思います。しかしミライロでは、スポーツ環境を整える前の段階の部分に視点があります。それは障害者の教育や雇用のことです。

元山 パラリンピックも万博も、大きなイベントとして注目されていますが、一過性の盛り上がりで終わっては意味がないですものね。教育や雇用について、どのようなお考えなのでしょうか。

垣内 スポーツはお金と時間がないと楽しめないものですが、日本では障害者が働いてお金を稼ぐ環境がまだまだ少ないんです。その理由のひとつに、障害者の大学進学率が非常に低いことがあります。

【編集部注:平成27年の文部科学省の発表によると、日本の全大学における障害者学生の割合は“0.68%”。】

元山 大学卒業、という条件は雇用の上では大切な要素ですが、障害者になると教育の機会が極端に下がるという現状がありますね。

垣内 障害者雇用の水増し問題でも強く感じたことですが、企業や組織が本来の仕事から「障害者でも出来ること」をわざわざ切り出して与えているうちはダメなんです。「障害があっても出来る仕事」を探すのではなく、本来は「その人だから出来る仕事」、「その人にあった仕事」があるはずなんです。

【編集部注:障害者雇用水増し問題/2018年、中央省庁の約8割の行政機関で、法定の障害者雇用の数字があわせて3,460人水増しされていたことが判明した問題。障害者の法定雇用率を行政がごまかしていたことが明るみになった。】

元山 「障害があるからこれは出来ないだろう」と、企業側が一方的に考えている場合が問題ですよね。仕事の継続性に重要なのは、本人にとってのやり甲斐ですから。本人の特性を無視した仕事を勝手に与えられていては、勤労意欲が下がるのは当たり前です。

垣内 はい。しかし大学教育を受けていないと、一般企業から見るとどうしても「雇用したい」という判断につながりにくい。ですから障害者の大学進学率が低い今のままで、急に障害者雇用だけが増えるわけはないんです。

障害者雇用を本当に増やしたいのであれば、そもそもまずは教育の仕組みから変える必要があります。

「欠点」ではなく「価値」へ―「バリアバリュー」の誕生

元山 確かにそうですね。雇用とは、数字だけではなくて、働く人の学び方や生き方が関わってくる問題です。障害のある・なしに関わらず、いろんな人が社会で活躍できる環境が重要だと思います。そこで「バリアバリュー」という価値観が社会にもっと普及することが大事なんですね。

垣内 「バリアバリュー」とは、「バリアフリー」とは違います。「バリアフリー」とは「障害を取り除く」ということです。しかし「バリアバリュー」は、「障害を価値に変える」という視点です。

元山 障害があることが逆に人間としての強みになる、ということですね。障害がある当事者も周囲も、「社会的な弱者」という点ばかりが気になる時期ってどうしてもあると思うんです。

でも垣内さんの「バリアバリュー」の視点は、障害を「欠点」とせず、「価値」とみなしている。ご自身の人生の中で、どのようにその考え方は生まれたものなのでしょうか。

垣内 私は10代のころから、目の前の課題ひとつひとつに全力で取り組んで、大きな諦めや絶望も味わってきました。著作『バリアバリュー』にもいろいろと書きましたが、僕は自殺を3度考えるほどに苦しみました。その経験の中で、自分の苦しみととことん向き合ってきたことが大きいです。

元山 私も中途障害者になり、コンプレックスやネガティブな気持ちを抱えることも多くありました。でもそういった悩みとしっかり向き合うことで、わかることも多くあったように思います。

垣内 もちろん私の場合は、たったひとりだけで悩んできたことではなくて、自分をしっかり受けとめてくれる家族や周りの人間との出会いがありました。今でも差別や辛いことはゼロではありません。でもそれ以上に、嬉しい思い出や成功体験がある。出来ないことよりも、出来ることや支えてくれる人との出会いを意識するようになったことで、大きく変わりました。

元山 辛いことやしんどいことを見ればどうしてもキリがないし、悩みは一生続くもの。だからこそ、今自分が出来ることや、つながっていける周りの人や環境を大事にしていくことが大事ですね。

垣内 100年前や10年前の日本よりも、今この瞬間の日本は明らかによくなってきています。だからこそ、今以上にもっと良くしていきたい。誰もが楽しく生きるために、障害者が社会に出ていきたくなる経済の仕組み作りまで、広く考えて実現していくことが大切です。障害がある者もない者も、お互いにとってのメリットや充足感を生み出すことが重要です。ミライロでは、今後もますます多くの人との連携を進めていきたいと思います。

元山 またこの先の変化を、とても楽しみにしています。垣内さんの前に進んでいくエネルギーをひしひしと感じました。本日はありがとうございました!


■プロフィール
垣内俊哉
かきうち・としや (29 歳・骨形成不全症)
立命館大学在学中に起業し、2009 年「株式会社ミライロ」を 設立。2018 年「JapanVenture Awards 2018」では経済産業大臣賞を受賞。近著に『バリアバリュー ―障害を価値に変える』(新潮社)。

「ユニバーサルデザイン検定」の実施や、 車いすユーザーで作る街歩きアプリ『Bmaps』の開発などを行う「株式会社ミライロ」。
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元山文菜
もとやま・あやな (38 歳・変形性股関節症)
『Co-Co Life ☆女子部』編集長。「株式会社リビカル」 代表取締役。業務改善コンサルタントとして働き、一児の母でもある。中途障がい・見えない障がいを持つ当事者視点から本誌を先導する。

撮影:鈴木智哉 構成&文:赤谷まりえ

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