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2020-12-29

手の感覚だけのアートやろう者とのクロストーク…「ろう文化」についてのイベントを視聴しました

 2020年11月29日、アートプロジェクト「TURN」の可能性について考え語り合う「TURNミーティング」を視聴してきました。第12回となる今回は、コロナ禍の中、オンライン開催となりました。

 障がいの有無、世代、性、国籍、住環境などの背景や習慣の”違い”を超えた、多様な人々の出会いで表現を生み出すアートプロジェクト「TURN」。

 今回のテーマは「ろう文化」です。

 第一部では、TURN監修者の日比野克彦(ひびのかつひこ)さんが、視覚と聴覚を用いず手の感覚だけで描く「触画」というものを描いている様子を上映。新しい知覚と表現の世界に出会おうとする試みで、イメージによって広がる可能性を体感していらっしゃいました。日比野さんは「聴者であるがゆえ、ろう者の方の全ての感覚の理解は難しい」とおっしゃっていましたが、自ら体感し理解を深めようとする姿に私は感動しました。

 合間には、TURN交流プログラムに参加するラッパーのマチーデフさんによるパフォーマンスが。画面には視覚的に音のリズムやビートが伝わってくる躍動感あるサウンドを感じれるイラストでの工夫もされており、会場は大盛り上がり-! 私も画面越しにマチーデフさんのラップにのれて気分もあがり楽しみました。

 そして、第二部。日比野さんとゲストの方々を交えての「ろう文化」についてのクロストークです。

 ゲストのろう者で俳優の那須英彰(なすひであき)さんと手話の普及に取り組んでいる団体「手話フレンズ」代表のモンキー高野さんは、ろうの当事者。音を聞いた記憶がなく、補聴器を付けても何の音か分からないそうです。

 モンキー高野さんと暮らしている聴者のらーちゃん(高島由美子さん)が感じた初めての衝撃が、手話の指さしだったそう。聴者の間では、指さしは良い印象がありませんが、手話で指さしはコミュニケーションを構成する要素として重要なのだそうです。

 また、ろう者の方はディスコやクラブへ行くと、音が壁や床に伝わる振動を体で感じ楽しんでいるそうです。振動でもリズムを楽しめるということは新たな発見でした。

 那須さんが「扉」をテーマにした一人芝居を披露。台本を作るとき、映像を連続して観ていくようなイメージでそれを組み立てて構成していくのだそうです。那須さんは、目、口、顔のあらゆる筋肉を大きく使い表情豊かに、体を大きくそして細やかに表現していらっしゃいました。この芝居は音が無いので、見ている側で想像力を働かせ自分の中の引き出しにある映像やイメージを繋ぎ合わせていく必要があります。全身を使いダイナミックに伝えてくれ、見ているほうも自分がそれを体感したかのような感覚にさせてくれました。映像的で体感的、そしてリアルに、手話でなりたいものになりきって伝えてくれるイメージでした。

 ろう者の「ろう文化」とは、映像的視覚的に情報を伝えること。ろう者はコミュニケーションで視覚的特徴を捉え、手話を用いて伝えます。映像的なものがベースにあり、表情や手の動きによって耳で聴きとる言葉以上に伝えようとしています。その視覚的映像を使って他者に伝えていく頻度やスピード感は、ろう者ならではの文化。自分たちが経験の中で見てきた、多様で豊かな映像をストックし、アウトプットする力を活かせることが「ろう文化」の特徴であり魅力だといいます。そして、私たちもこうした体験が出来れば、映像的世界観がより豊かになるのではと、日比野さんは言います。

 日比野さんは最後に、「人間はいろいろな能力を持っていて、人間の魅力を知るうえでも、『ろう文化』に近づいていくという好奇心も大切」ともおっしゃっていました。

 多様性のある世の中で、個性を尊重し合い、それぞれの能力を発見し合って、新しいものを生み出していくことは、理想的ではないでしょうか。

 今回のイベントを視聴し、自然と身近に今まで気づかなかったことが、たくさんあるのだと気づかされました。人は、普段は主観的に生きていると思いますが、今までの自分にはなかった世界を知ることで、自分自身の幅が広がります。より豊かな主観性を生み出し、さまざまな個性を受け入れ、認め合い、共存していけば、より生きやすい世の中になるのではと思います。今後も、世の中に当たり前にありふれているものを、改めて観察し見ていきたいと感じた時間となりました。

主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、特定非営利活動法人Art’s Embrace、国立大学法人東京芸術大学

(撮影:金川晋吾)

この記事のライター/岡本千尋 下垂体前葉機能低下症(成人GH分泌不全症)
生まれつき脳の下垂体に腫瘍があり、2016年に正式に病名が付き難病者に。関西外国語大学短期大学部英米語学科卒業後、接客業や事務などの経験を経て、2020年からライターとして活動を開始。

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